第3回「不倫、不貞、浮気トラブルの慰謝料が高くなる?その2」
1.不倫、不貞、浮気の慰謝料の算定要素は何?
先日の記事で、不倫、不貞、浮気の慰謝料を算定する際に、婚姻関係破綻の有無が重要な要素になることを解説しました。
isharyoubenngosi.hatenablog.com
婚姻関係破綻の有無以外にも、不倫、不貞、浮気の慰謝料を算定する際には、様々な考慮要素が関係してきます。
この記事では、それらの考慮要素について解説をいたします。
2.増額事由
① 婚姻期間が長いこと
不倫、不貞、浮気が民法上の不法行為に該当する理由は、それが婚姻共同生活の平和を侵害することにありますので(最高裁判例平成8年3月26日)、侵害される利益である婚姻の期間が長ければ長いほど、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
例えば、夫婦生活が30年以上にわたる夫婦に起きた不倫事件と、夫婦生活が半年にも満たない夫婦に起きた不倫事件とでは、不倫の与える影響が異なるといえるでしょう。
② 婚姻生活が円満であったこと
これも①の婚姻期間と同様に、不倫、不貞、浮気が民法上の不法行為に該当する理由は、不倫、不貞、浮気が婚姻共同生活の平和を侵害することにありますので、侵害される利益である婚姻生活の状況が円満だったのであれば、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
③ 不貞期間が長いこと
不倫、不貞、浮気は民法上の不法行為に該当しますので、不倫、不貞、浮気の期間が長期にわたる事実は、いわゆる加害行為の態様に関する事実であり、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
④ 不貞の頻度
これも③の不貞期間と同様に、不倫、不貞、浮気の頻度が多い事実は、いわゆる加害行為の態様に関する事実であり、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
⑤ 不貞の主導者
いわゆる不倫、不貞、浮気のカップルのうち、不貞を主導したと認定された者が支払うべき慰謝料については、その主導性が増額事由として作用することになります。
ただし,東京高裁昭和60年11月20日判決(判時1174号73頁)は、婚姻関係の平穏は、第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、不貞あるいは婚姻破綻についての主たる責任は不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものと見るべき旨を指摘しています。
つまり、不倫、不貞、浮気のカップルのうち、慰謝料を請求する妻又は夫にとっての配偶者と、その不倫、不貞、浮気の相手方とでは、責任の重さが異なり、妻又は夫の配偶者の方が、責任が重い旨を指摘している東京高裁の裁判例です。
地裁の裁判例においても、この考え方に言及する裁判例が複数見られますので、慰謝料の算定に当たっては、主張に値する事情であるといえるでしょう。
⑥ 虚偽に基づく不貞の否認
不倫、不貞、浮気が発覚し、これを追求する妻又は夫に対し、不倫、不貞、浮気の当事者が、不倫、不貞、浮気はないと虚偽を述べてこれを否認することは、いわゆる加害行為の悪質さを増大させるものとして、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
⑦ 不貞関係解消の約束の不履行
不倫、不貞、浮気が発覚し、これを追求する妻又は夫に対し、不倫、不貞、浮気の当事者が、不倫、不貞、浮気関係を解消すると約束したにも関わらず、不倫、不貞、浮気を継続した場合は、いわゆる加害行為の悪質さを増大させるものとして、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
⑧ 子の妊娠・出産
不倫、不貞、浮気のカップルに、子が生まれた場合は、慰謝料を請求する妻又は夫の精神的苦痛を増加させるため、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
⑨ 妻又は夫の精神的苦痛の程度が大きいこと
慰謝料は、不倫、不貞、浮気によって妻又は夫が被った精神的苦痛を慰謝するための金員ですので、妻又は夫が、不倫、不貞、浮気により被った精神的苦痛の程度が大きく,それを立証することができれば、慰謝料の算定に当たっては、増額事由として作用することになります。
3.まとめ
以上のように慰謝料の算定に当たっては、様々な考慮要素から、慰謝料を請求する妻又は夫が、不倫、不貞、浮気によって、どの程度の精神的苦痛を被ったかが検討されます。
第2回「不倫、不貞、浮気トラブルの慰謝料が高くなる要素は?」
1.不倫、不貞、浮気の慰謝料で、最も重要な算定要素は?
先日の記事で、不倫、不貞、浮気の慰謝料の相場感について解説をさせていただきました。
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慰謝料は、不倫、不貞、浮気をされた夫または妻の精神的苦痛を慰謝するためのお金ですから、その「精神的苦痛」を金銭的に算定する必要があるところ、これを一概に算定することはできないため、個別の事案ごとに判断されているのが実情です。
そして、その算定要素としては、不貞期間の長短、不貞行為の頻度、不貞の主導性、婚姻期間の長短、子の有無など、あらゆる要素が裁判例や文献で紹介されています。
「要素が多すぎて分からない」と感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、その中でも、特に重要な算定要素があります。
それは、「婚姻関係の破綻の有無」です。
2.「婚姻関係の破綻の有無」とは?
少し硬い用語が出てきましたので、噛み砕いて解説をさせていただきます。
そもそも、不倫、不貞、浮気に基づき、慰謝料を請求できる根拠は、不倫、不貞、浮気が民法上の「不法行為」に該当するからです。
この「不法行為」に該当する理由について、最高裁は、不貞行為が「婚姻共同生活の平和の維持」という権利または法的保護に値する利益を侵害するから、と判示しています(最三小判平成8年3月26日民集50巻4号993頁参照)。
この「婚姻共同生活の平和の維持」を侵害するからこそ、不倫、不貞、浮気は民法上の不法行為に該当し、慰謝料請求の理由となります。
そうすると、この「婚姻共同生活の平和の維持」が侵害された程度に応じて、慰謝料の額が変わってくることにも頷けます。
「婚姻共同生活の平和の維持」が最も深く侵害された場合が、すなわち婚姻関係の破綻であり、これは典型的には、不倫、不貞、浮気が原因で、夫婦が離婚に至るケースです。
不倫、不貞、浮気が原因で夫婦間が離婚に至ってしまうと、「婚姻共同生活の平和の維持」が究極的に侵害された結果となりますので、その分、慰謝料も高くなってしまいます。
戸籍上は離婚していないものの、夫婦が別居に至り、不貞をされた側の配偶者が離婚を強く要求している場合なども、夫婦関係が修復に至る可能性がなく、実質的に婚姻関係が破綻したと認定される場合があります。
逆に、「婚姻共同生活の平和の維持」に対する侵害が軽いものにとどまる場合、すなわち、典型的には、不倫、不貞、浮気があったにもかかわらず、夫婦は離婚に至らず、夫婦の同居も維持されている場合などは、その分、慰謝料も低くなる傾向にあります。
「夫が不倫したのに、妻が離婚しないケースがあるの?」と疑問を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、離婚しないどころか、同居を継続するケースも実際には存在します。
3.まとめ
以上のように慰謝料の算定に当たっては、不倫、不貞、浮気によって、夫婦の関係にどの程度の亀裂が入ったのか、すなわち「婚姻関係の破綻の有無」が、慰謝料の算定に重要な影響を与えるといえるでしょう。
もちろん、その他の事情(不貞期間の長短、不貞行為の頻度、不貞の主導性、婚姻期間の長短、子の有無等)も慰謝料に影響を与える要素ですので、これらの点についても、別の記事にて解説をさせていただきたいと思います。
第1回「不倫、不貞、浮気トラブルの慰謝料っていくら?」
1.不倫、不貞、浮気とは
短めに自己紹介から始めさせていただきます。
私は、不倫、不貞、浮気トラブルの慰謝料事件の法律相談を、山のように処理してきた、都内の弁護士です。
このブログでは、私の豊富な経験から、不倫、不貞、浮気トラブルの法律問題について解説をさせていただきます。少しでも読者の皆さんに役立つ情報をお届けできればと思っています。
早速ですが、夫や妻から慰謝料請求をされる事件となるような、いわゆる「不貞行為」とは、裁判例等で次のように定められています。
・・配偶者のある者が、配偶者以外の異性と性的関係をもつこと・・
裁判所は「不貞行為」という言葉を使いますが、世間的には、「不倫」や「浮気」という言葉の方が一般的ですよね。
性的関係がどの段階に至れば慰謝料を請求されるのか、夫婦仲が決定的に破綻している場合でも慰謝料を請求されるのか、という「不貞行為」の定義にかかわる問題もありますが、それらのテーマは別の記事で扱います。
この記事では、まずは皆さんが最も関心のある、慰謝料の相場感について解説をしていきます。
2.慰謝料の相場
慰謝料の相場を正確に理解するには、まず、「慰謝料ってどういう意味?」という疑問を解決する必要があります。
法的には、「慰謝料」とは、「精神的苦痛を慰謝するための金銭」という言い方になります。
つまり、不倫、不貞、浮気によって、夫または妻が心を痛めたことに対する金銭的な補償という意味合いでしょうか。
しかし、「精神的苦痛」や「心を痛めたこと」をお金に換算するのは難しいですよね。
なので、不倫、不貞、浮気の慰謝料の額については、明確に定められた相場の基準は今のところ存在しません。裁判所が個々の事案に応じて決めているのが現状です。
実際の裁判例でも、不倫、不貞、浮気の慰謝料は「50万円が妥当」としたケースから、「100万円が妥当」としたケース、さらには「300万円が妥当」としたケース、もっというと400万近い金額を妥当としたケースまであります。
3.慰謝料はいくらになるのか?
以上から、不倫、不貞、浮気をしてしまい、慰謝料請求を受けた夫または妻が、「自分はいくらの慰謝料を払わなくてはいけないんだろう」と疑問をお持ちになり、ご自身の事案に即した不倫、不貞、浮気の慰謝料の相場感をお聞きしたいという方は、弁護士に相談することをお勧めします。
ブログを書いている私も、法律相談では、事情を詳しくお聞きした上で、山のように処理してきた相談・交渉・訴訟経験や、数百件に及ぶ裁判例の分析に基づき、慰謝料の相場や今後の進め方について適切なアドバイスをするよう努力しています。
もっとも、慰謝料の相場については、何も手掛かりがないわけでなく、裁判例の分析から、慰謝料の増額要素や減額要素を抽出することができます。
ですので、次の記事では、これらの増額要素や減額要素について分かりやすい解説をしていきたいと思います。